野球肩って何!? 第3話 どうして起こるの?
今回で3回目となる『野球肩って何!』どうして起こるのか・・・?症例を例に、羊ヶ丘病院 理事長・副院長岡村健司ドクターの協力の下、引き続き紹介させていただきます!もしやすでに痛みを感じている選手は必見ですよ!もしかするとすでに野球肩の疑いがあるかも?
みなさんこんにちは。羊が丘病院整形外科の岡村健司です。
前回、野球肩がどうして起こるのか、投球動作のフェーズ(投球相)を例にして、お話ししました。ボールを投げる動作の5つのフェーズで肩にいろいろな障害が起こる可能性があるとお話しました。今回からは具体的に野球肩とはどこが悪くなって症状が出るのかひとつひとつ疾患を取り上げていきます。今回は、野球肩の原因の中で最も多いインピンジメント症候群についてお話しします。“インピンジ”という言葉は日本語では”衝突“という意味です。症候群というのはシンドロームとも言われ病名と考えてください。つまりインピンジメント症候群とは衝突病です。一体ボールを投げると、どこがどこに衝突するのかこれからお話しします。前回の投球フェーズを思い出して下さい。
投球フェーズのレイトコッキング期で肩が最大に外旋した位置(肘が頭の後方に来るトップの位置)からボールを加速してリリースしフォロースルーまでの間に肩は最大外旋から急激に内旋されます(図1)。この時、肩関節には前方に大きな力が加わります。特に、肩の開きが早かったり、肘が下がって肩にあそびができ肩がぶれると前方へのストレスがより大きくなります。前方に大きな力がかかると腕の骨(上腕骨頭)が屋根の骨(肩峰)に衝突し、その間にある腱や滑液包が炎症を起こしたり、損傷が起きます(図2)。したがって痛みはトップからリリースする間に肩の前方に起きることが多いです。
ここでインピンジメント症候群をより理解しやすくするために肩関節の構造について少しお話しします。肩関節は人の関節の中で最もよく動く関節です。よく動くということは逆に不安定であるということです。したがって肩の周りには肩関節をしっかり安定させる筋肉や靭帯、腱が発達しています。特に腱板は肩関節の周りを取り囲みしっかりと肩を支えている4つの筋群(筋肉―腱)で、一般的にインナーマッスルと言われています。腱板の外側には肩峰下滑液包(けんぽうかかつえきほう)という袋があり、腱板が屋根の骨の下をうまくくぐれるようにすべるクッションの働きをしています(図3)。野球選手の肩のトレーニングでは盛んにインナーマッスルトレーニングが推奨されます。それは投球時に肩をしっかりと安定させて肩の“ぶれ”が起こらないようにするためです。ボールを投げすぎると腱板は疲労して肩をささえる力が弱くなり、肩がぶれてインピンジを起こしやすくなります。特にピッチャーやキャッチャーはボールを投げる機会が多いので腱板が弱ってインピンジメント症候群になりやすい傾向にあります。実際、野球をしている子の肩の診察をすると腱板、特に棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょくかきん)の筋力が弱っている選手をよく見かけます。それではインピンジメント症候群にならないためには弱っている腱板を鍛えるインナーマッスルトレーニングだけをすればよいのでしょうか。実はそんなに単純なものではありません。腱板は肩甲骨から出てくる筋肉です。ですから土台である肩甲骨が不安定だとうまく腱板を鍛えることはできません。例えればぐらぐらした土台(肩甲骨)の上で腕立て伏せ(腱板訓練)をしているようなものです。ですから腱板を鍛えるには、まず肩甲骨周囲の筋肉トレーニングをして、肩甲骨がしっかりするようになったら腱板の訓練をすることが多いです。
インピンジメント症候群の治療はまずは肩を休めてあげることが必要です。つまり根本原因である投げすぎを止める必要があります。軽症なら1-2週間のノースローで完治します。同時に投球に負けない肩を作るために肩甲骨周囲の筋力訓練、腱板訓練(インナーマッスルエクセサイズ)を行います。筋力訓練は最低2ヵ月行わないと効果は認められませんので根気よく行う必要があります。ノースローや筋力訓練を行い、投球フォームを矯正(肩の開き、肘の位置)することでほとんどのインピンジメント症候群は改善します。しかしシーズン中で長期の安静や治療期間が取れない選手で、どうしても試合に出なければならないような場合は、痛み止めの薬を処方したり、炎症止めの注射をして急場をしのぐ治療をする場合もあります。しかしこのような保存治療を3-6か月行っても症状が改善されないような慢性的なインピンジメント症候群の選手では手術を行うことあります。手術は小さい傷(7mm)から内視鏡を入れてインピンジメントの原因となっている肩のゆるみを取るために関節包を縮めたり、慢性炎症を起こしている肩峰下滑液包を切除します。腱板が損傷していれば修復します。手術は30分ぐらいですが入院が2-3日必要です。手術後は肩のリハビリを行い、手術後3ヵ月で投球を再開し、約6か月で試合に復帰します。20年前よりこれまで多くの野球選手にこの手術を行い高い復帰率を得ています。野球に必ず復帰できますが、手術後にポジションを変更したり、野球のレベルを落とす必要のある選手もいます。
やはりインピンジメント症候群を起こしている野球肩の選手では早い段階でのリハビリ治療が最も重要であると考えます。次回は野球肩に多い関節唇損傷についてお話しします。
【リハビリ室スタッフ紹介】
リハビリテーション科
●橋本 浩樹(26歳)
~スポーツとの関わり~
小学校時代は小4から大学まで野球を一筋!高校野球では茨城の高校に通い甲子園を目指しました!3年時では4回戦で甲子園出場を果たした土浦湖北高校に破れ高校野球を終えました。
発行人から
とても明るく場を和ませてくれる橋本さんケガで落ち込んでちゃダメですよ!と言わんばかりで、野球の話題では盛り上がりそう!
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